褒め方と叱り方の心理テクニックとは?部下を伸ばす伝え方と信頼を守るコツを解説

褒め方と叱り方の心理テクニックとは?部下を伸ばす伝え方と信頼を守るコツを解説

部下や後輩を育てる立場になると、どのタイミングで褒め、どのように叱ればよいのか迷うことがあります。

褒めてもお世辞に聞こえたり、注意したつもりが人格否定として伝わったりすることもあります。

大切なのは、相手の性格を評価するのではなく、具体的な行動とその影響を伝えることです。

良かった行動は、続けられるように言葉にします。

問題のある行動は、次にどう直すかまで整理します。

この記事では、相手のやる気を高める褒め方、傷つけずに行動改善を促す叱り方、評価の基準を一貫させて信頼を守る方法をわかりやすく解説します。

目次

褒めることと叱ることの本当の目的

褒める目的は機嫌を取ることではない

褒める目的は、相手の機嫌を取ったり、自分に好意を持ってもらったりすることではありません。

良かった行動を伝え、今後も続けてほしい行動を本人が理解できるようにすることです。

たとえば、「すごいね」とだけ伝えても、本人は何を評価されたのかわからない場合があります。

一方で、「会議前に資料を共有してくれたので、参加者が事前に確認できました」と伝えれば、良かった行動が明確になります。

このような褒め方なら、相手は次回も同じ行動を取りやすくなります。

褒め言葉は、相手を持ち上げるための飾りではありません。

行動をわかりやすく伝えるフィードバックです。

また、本心では評価していないのに、やる気を出させるためだけに大げさに褒めると、不自然さが伝わることがあります。

褒める点が見つからない場合は、無理に「最高です」「完璧です」と言う必要はありません。

「期限内に提出できました。」

「前回より確認漏れが減りました。」

このように、確認できる事実や小さな改善を伝えれば十分です。

褒めるときは、相手の気分を操作しようとするのではなく、良かった行動を本人と共有することを意識しましょう。

叱る目的は感情をぶつけることではない

叱る目的は、怒りや不満を相手へぶつけることではありません。

問題のある行動を止め、同じことが起きないように、次の行動を明確にすることです。

ミスによって予定が崩れたり、周囲に負担がかかったりすれば、上司が腹を立てることはあります。

しかし、感情のまま「何度言えばわかるんだ」「本当に使えない」と言っても、相手は何を直せばよいのかわかりません。

恐怖や恥ずかしさだけが残り、次から失敗を隠すようになる可能性もあります。

叱る前に、今回変えてほしい行動を一文で整理しましょう。

「遅れそうだとわかった時点で連絡してほしい。」

「提出前に金額と日付を確認してほしい。」

「お客様へ返信する前に、判断に迷う部分を相談してほしい。」

このように具体的にすれば、話が人格批判へ広がりにくくなります。

厚生労働省は、人格を否定する言動や、必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返すことを、職場のパワーハラスメントに該当し得る例として示しています。

必要な指導は行いながら、怒りの発散とは切り分けることが大切です。

行動を具体的に伝えることが成長につながる

褒めるときも叱るときも、性格ではなく行動を具体的に伝えましょう。

「優秀だね。」

「責任感がない。」

このような言葉は、本人の全体を評価する表現です。

褒め言葉であっても、何を続ければよいのかわかりにくくなります。

叱る言葉であれば、人格を否定されたように感じさせます。

行動を伝えるなら、次のようになります。

「問い合わせ内容を種類ごとに整理したので、担当者が判断しやすくなりました。」

「期限を過ぎる可能性がわかった後も、共有がありませんでした。」

行動を伝えた後は、その影響を説明します。

「事前に整理されていたので、対応時間を短くできました。」

「共有がなかったため、他の担当者の予定変更が当日になりました。」

最後に、続けてほしい行動や改善してほしい行動を示します。

「次回も、種類ごとにまとめてください。」

「遅れる可能性が出た時点で、一度連絡してください。」

具体的な行動なら、本人も再現したり修正したりできます。

成長を支えるフィードバックでは、相手を評価するより、変えられる行動を言葉にすることが重要です。

結果だけでなく過程にも目を向ける

結果はわかりやすいため、評価の中心になりやすいものです。

売上が増えた。

契約が取れた。

試験に合格した。

目標を達成した。

こうした成果を認めることは大切です。

しかし、結果だけを褒め続けると、本人が成果の出なかった挑戦を避けるようになる場合があります。

環境や運に左右される結果もあるため、本人が工夫した過程にも目を向けましょう。

「お客様の質問を事前に整理したことが、提案のわかりやすさにつながりました。」

「前回の失敗を受けて確認表を作った点が良かったです。」

「結果は届きませんでしたが、早い段階で相談できたことは前進です。」

子どもを対象とした研究では、能力そのものを褒めるより、努力や方法に注目した称賛の方が、挑戦や学習への姿勢と結びつく可能性が示されています。

ただし、努力していれば結果を問わなくてよいわけではありません。

過程を認めたうえで、結果が出なかった理由と改善策を一緒に考えることが大切です。

褒めるときも叱るときも基準を一貫させる

信頼される上司は、褒めるときと叱るときの基準が大きく変わりません。

同じ行動なのに、気に入っている部下なら褒め、別の部下なら無視する。

機嫌のよい日は許し、悪い日は強く叱る。

このような対応が続くと、部下は何を基準に行動すればよいかわからなくなります。

評価の基準は、できるだけ事前に共有しましょう。

期限。

品質。

報告のタイミング。

確認すべき項目。

判断を任せる範囲。

これらが明確なら、褒める理由と叱る理由にも納得しやすくなります。

褒める回数と叱る回数を一定の割合にする必要はありません。

重要なのは、同じ基準を公平に使うことです。

また、状況によって基準を変える必要がある場合は、その理由を説明しましょう。

「今回は安全に関わるため、通常より厳しく確認します。」

「新人期間中は、完成度より早めの相談を重視します。」

このように伝えれば、相手も判断の背景を理解できます。

一貫性は、何があっても同じ対応をすることではありません。

同じ目的と明確な理由に基づいて対応することです。

褒め方を間違えると逆効果になる理由

抽象的な褒め言葉は何が良かったか伝わりにくい

「すごい。」

「さすが。」

「優秀だね。」

このような褒め言葉は、うれしく感じることもあります。

しかし、何を評価されたのかがわからなければ、成長の手がかりにはなりにくいです。

具体性を加えましょう。

「資料の最初に結論があったので、判断しやすかったです。」

「質問されたときに、わからない部分を無理に答えず確認した点が良かったです。」

「忙しい中でも、進捗を毎日共有してくれたので安心できました。」

このように伝えれば、本人は続けるべき行動を理解できます。

抽象的な褒め言葉を使ってはいけないわけではありません。

「すごいね。特に、相手の質問を最後まで聞いてから答えた点が良かったです」と、具体的な説明を加えればよいのです。

また、褒める内容が事実と合っていることも重要です。

本人が十分にできていないと感じているのに、「完璧だった」と言われると、お世辞や気遣いに聞こえる場合があります。

評価した行動を、見たままの言葉で伝えましょう。

人前で褒めることが負担になる人もいる

人前で褒めれば、誰でも喜ぶとは限りません。

注目されることが苦手な人もいます。

周囲から特別扱いされたように感じる人もいます。

チーム内の嫉妬や競争を心配する人もいるでしょう。

本人の希望を確認せず、全員の前で大げさに称賛すると、かえって居心地を悪くさせる場合があります。

普段の反応を見ながら、伝える場所を選びましょう。

個別に伝えた方がよい人には、一対一で褒めます。

チーム全体に共有する価値がある成果なら、事前に本人へ確認してもよいでしょう。

「この工夫は他のメンバーにも参考になるので、会議で紹介してもよいですか。」

この一言があれば、本人も準備できます。

また、個人を目立たせるより、行動の価値を共有する方法もあります。

「今回、事前確認を行ったことでミスを防げました。今後はチーム全体でも同じ手順を使いましょう。」

本人を持ち上げるだけでなく、良い行動をチームへ広げられます。

褒める側の満足ではなく、受け取る側がどう感じるかを考えましょう。

結果だけを褒めると失敗を怖がりやすくなる

結果だけが評価される環境では、失敗しそうな仕事を避けたくなることがあります。

必ず成功できる仕事だけ選ぶ。

難しい挑戦に手を挙げない。

途中で問題が起きても隠す。

このような行動につながれば、長期的な成長を妨げます。

結果を褒めるときは、その結果を生んだ工夫や判断にも触れましょう。

「目標を達成できたことに加えて、途中で方法を見直した判断が良かったです。」

「契約につながったことも良いですが、お客様の懸念を先に確認した点が大きかったと思います。」

失敗したときも、学びにつながる行動は認めます。

「今回は成果につながりませんでしたが、原因を記録して次の案を出せた点は前進です。」

知能を褒められた子どもが、努力を褒められた子どもより失敗後の意欲を失いやすかったという研究結果があります。

成人を対象にした研究でも、「努力家だ」という人物全体への評価より、「この課題で努力した」という過程への評価の方が、失敗後の受け止め方に違いを生む可能性が検討されています。

結果と過程の両方を見ることで、挑戦しやすい環境を作れます。

他の人と比較して褒めると競争意識が強くなる

「同期の中で一番できている。」

「Aさんより資料がわかりやすい。」

「ほかの人はできなかったのに、あなたは優秀だ。」

このような褒め方は、本人を喜ばせることがあります。

しかし、評価の基準が他人との比較になるため、チーム内の競争を強める可能性があります。

褒められた本人も、次は順位が下がるのではないかと不安になることがあります。

比較するなら、必要な基準や本人の過去と比べましょう。

「前回より報告が早くなりました。」

「求めていた三つの条件をすべて満たしています。」

「以前は一人で抱え込んでいましたが、今回は早めに相談できました。」

このような褒め方なら、本人の成長と具体的な基準に注目できます。

他人との比較が必要な評価制度もあります。

その場合でも、日常の褒め言葉まで順位づけにする必要はありません。

チームで協力する仕事では、個人の勝ち負けより、周囲へ与えた良い影響を伝える方が役立ちます。

「あなたが手順を共有したことで、全員の作業時間が短くなりました。」

このような言葉なら、競争ではなく協力を強められます。

下心のある褒め方は見抜かれやすい

お願いを聞いてもらう直前だけ褒める。

注意しにくいから、先に大げさに持ち上げる。

相手を働かせるために、お世辞を使う。

このような褒め方は、目的が見えると信頼を失います。

「いつも本当に優秀だね。ところで、今日も残業をお願いできる?」

このように褒め言葉と依頼が毎回セットなら、相手は褒められても素直に受け取れません。

褒めるときは、褒めることだけを独立して伝えましょう。

依頼があるなら、必要性と条件を正直に説明します。

「今日、追加対応をお願いしたいです。」

「急な依頼になるため、難しければ別の方法を考えます。」

お世辞で誘導するより、誠実に相談する方が信頼を守れます。

また、できていないことを褒めるのも避けましょう。

不自然な称賛は、本人が失敗を理解しているほど違和感を生みます。

日本の幼児を対象にした研究では、失敗場面での不誠実な称賛を子どもがどのように受け止めるかが検討されており、褒め言葉は内容や状況によって異なる意味を持つことがわかります。

事実に基づき、操作しようとせず伝えることが大切です。

相手のやる気を高める褒め方

良かった行動を具体的に伝える

効果的な褒め方の基本は、良かった行動を具体的に言葉にすることです。

「よく頑張った」だけで終わらせず、何を見てそう判断したのかを伝えます。

「問い合わせの内容を先に整理したので、担当者への引き継ぎがスムーズでした。」

「予定より早く問題を共有してくれたので、納期を調整できました。」

「お客様の話を途中でさえぎらずに聞いたことで、要望を正確に確認できました。」

行動と影響を組み合わせると、褒め言葉の意味が明確になります。

具体的に褒めるためには、普段から相手の仕事を見る必要があります。

結果が出たときだけ声をかけるのではなく、仕事の進め方や工夫にも注意を向けましょう。

ただし、細かく監視する必要はありません。

報告、提出物、会議での発言、周囲への対応など、確認できる行動を見ます。

褒める材料が見つからないと感じる場合は、期待する基準が本人へ共有されているかも確認しましょう。

基準が明確なら、できた行動を認識しやすくなります。

努力や工夫を見つけて認める

努力を褒めるときは、単に「頑張ったね」と言うだけでなく、どのような工夫があったのかを伝えましょう。

「前回のミスを受けて、チェック項目を作った点が良かったです。」

「わからない部分を調べてから質問したので、相談が具体的でした。」

「相手の反応を見て、説明の順番を変えた工夫が効果的でした。」

このような言葉なら、本人は努力の方向が合っていたことを理解できます。

一方で、成果につながらない努力を無条件に褒め続けるのは適切ではありません。

「長時間取り組んだこと」は事実でも、方法が合っていなければ改善が必要です。

「粘り強く取り組んだ点は良かったです。」

「ただし、次回は二時間たった時点で相談すると、早く解決できそうです。」

このように、努力を認めながら方法を調整できます。

子どもを対象とした縦断研究では、努力や方法に注目するプロセスへの称賛が、後の挑戦志向や能力観と関連していました。

職場でも、努力の量だけでなく、再現できる工夫を具体的に伝えることが役立ちます。

周囲に与えた良い影響を伝える

自分の行動が周囲にどのような良い影響を与えたかがわかると、仕事の意味を感じやすくなります。

「助かりました」だけでなく、何がどう助かったのかを伝えましょう。

「会議前に資料を送ってくれたので、参加者が質問を準備できました。」

「新人へ手順を説明してくれたことで、私が別の対応に集中できました。」

「問題を早めに共有したので、お客様へ先に連絡できました。」

このような褒め方は、本人の行動とチームの成果を結びつけます。

特に、目立つ成果が出にくい支援業務や調整業務では、周囲への影響を伝えることが大切です。

数字として表れにくくても、確認、準備、情報共有、相談対応によって、チームが動きやすくなっている場合があります。

ただし、周囲のために無理をし続けることまで褒めないようにしましょう。

「いつも自分を犠牲にして働いてくれて助かる」と言えば、過剰な負担を肯定してしまいます。

行動の価値を認めつつ、適切な負担かどうかも確認します。

相手が大切にしている目標と結びつけて伝える

同じ褒め言葉でも、本人が目指していることと結びつけば、意味が強くなります。

説明力を高めたい部下には、「今日の説明は、相手の知識に合わせて言葉を変えられていました」と伝えます。

リーダーを目指している人には、「自分の仕事だけでなく、周囲の進み具合を確認できていました」と伝えます。

正確さを高めたい人には、「確認手順を変えたことで、今回は修正がありませんでした」と伝えます。

本人が大切にしている目標を知るには、日頃の対話が必要です。

「今後どの力を伸ばしたいですか。」

「今回の仕事で、自分が意識した点はどこですか。」

このように聞けば、上司の評価だけでなく、本人の目標に沿ってフィードバックできます。

ただし、本人の希望を勝手に決めつけてはいけません。

「管理職になりたいはずだ」と思い込み、望んでいない役割を褒めても響かないことがあります。

本人が目指す方向を確認し、その目標に近づいた行動を具体的に伝えましょう。

小さな成長をその場で伝える

褒めるべき成果が大きくなるまで待つ必要はありません。

小さな改善を見つけたら、できるだけ早く伝えましょう。

「前回より結論が早く伝わりました。」

「今日は質問する前に、自分の考えを整理できていました。」

「以前より早い段階で相談できました。」

時間がたってからまとめて褒めるより、行動の直後に伝えた方が、何を評価されたのかわかりやすくなります。

ただし、何でも褒めればよいわけではありません。

できて当然のことを毎回大げさに褒めると、相手を子ども扱いしているように聞こえる場合があります。

相手の経験や役割に合わせて、言葉の強さを調整しましょう。

経験者には、「今回の判断は助かりました」と簡潔に伝えるだけでも十分です。

新人には、何が良かったかを少し詳しく説明すると学びにつながります。

小さな成長を認めることは、基準を下げることではありません。

目標へ向かう途中の変化を見逃さないことです。

相手を傷つけずに叱る方法

感情が強いときはすぐに叱らない

怒りが強いときは、安全上の緊急性がない限り、すぐに長い話を始めない方がよいでしょう。

感情が高ぶっていると、声が大きくなり、関係のない過去まで持ち出しやすくなります。

まず、今すぐ止めなければならない行動かを判断します。

危険がある場合は、短くはっきり止めます。

「危険なので、今すぐ作業を止めてください。」

「その対応は中止してください。」

安全を確保した後で、事情と改善策を話します。

緊急性がなければ、少し時間を置きましょう。

出来事をメモする。

変えてほしい行動を一文にする。

自分の印象と確認できる事実を分ける。

この準備によって、叱責ではなく指導に戻しやすくなります。

ただし、何日も放置すると、本人がどの行動について注意されているのかわからなくなります。

落ち着いたら、できるだけ早く時間を取りましょう。

感情を押し殺すのではなく、目的に合った言葉を選べる状態に整えることが大切です。

人格ではなく問題となった行動を伝える

叱るときは、「あなたは無責任だ」「能力がない」と人格を評価しないようにします。

伝えるべきなのは、実際に起きた行動です。

「提出期限は正午でしたが、午後三時まで提出も連絡もありませんでした。」

「お客様へ確認せずに、納期を確定すると伝えていました。」

このように、第三者も確認できる事実を伝えます。

次に、その行動の影響を説明します。

「確認作業が翌日にずれました。」

「実現できない納期だったため、お客様へ訂正が必要になりました。」

最後に、次の行動を伝えます。

「遅れる可能性が出た時点で共有してください。」

「納期を回答する前に担当者へ確認してください。」

人格を否定しても、本人は何を変えればよいのかわかりません。

一方で、行動なら修正できます。

厚生労働省は、人格を否定する言動や、能力を否定して罵倒する内容を複数人へ送ることなどを、精神的な攻撃の例として示しています。

厳しい内容を伝える必要があるときほど、人と行動を分けましょう。

事実と影響を分けて説明する

叱る場面では、事実と感情が混ざりやすくなります。

「報告が遅れた」は事実です。

「仕事を軽く考えている」は解釈です。

「確認欄が空白だった」は事実です。

「やる気がない」は解釈です。

解釈を事実のように伝えると、相手は「そんなつもりはありません」と反発しやすくなります。

まず、何が起きたのかを説明しましょう。

次に、その行動が仕事や周囲に与えた影響を伝えます。

「午後になっても進捗共有がなかったため、他の担当者の予定を変更できませんでした。」

このように話せば、注意する理由がわかります。

影響を大げさにするのも避けましょう。

「このままでは誰からも信用されない。」

「将来どこへ行っても通用しない。」

これは現在の行動に直接関係する事実ではありません。

今回起きた影響と、改善すべき行動に絞ります。

事実と影響を整理することで、感情的な叱責ではなく、問題解決の会話になります。

必要なら行動を止め、事情を確認して改善策を考える

安全、法令、顧客への重大な影響などがある場合は、まず問題行動を止めます。

「その機械の使用を中止してください。」

「お客様への送信は止めてください。」

「その発言はここで止めましょう。」

行動が止まった後で、何が起きたのかを確認します。

「どのような判断でこの対応をしましたか。」

「途中で困った点はありましたか。」

「指示の理解に曖昧な部分はありましたか。」

事情を聞くことは、問題を許すことではありません。

原因を正しく知るためです。

本人の確認不足が原因なのか。

指示が不明確だったのか。

必要な情報が届いていなかったのか。

業務量が多すぎたのか。

原因によって、改善策は変わります。

本人の行動を直すだけでなく、手順、教育、配置、相談の仕組みを変える必要がある場合もあります。

一方で、事情があっても守るべき基準は明確に伝えます。

「急いでいたことはわかりました。」

「ただし、安全確認を省くことは認められません。」

理解と責任を分けて話すことが大切です。

次に取ってほしい行動を具体的に決める

叱った後に、「次から気をつけて」で終わらせると、改善方法が曖昧なままです。

次に取る行動を、できるだけ具体的に決めましょう。

「提出前に、日付、金額、宛名の三点を確認する。」

「期限に遅れる可能性が出た時点で、完了予定と困っていることを共有する。」

「判断に迷った場合は、お客様へ回答する前に担当者へ相談する。」

具体的な行動なら、実行できたかを確認できます。

本人にも改善策を考えてもらいましょう。

「次回、同じことを防ぐには何ができそうですか。」

「どの時点で相談できそうですか。」

本人が方法を思いつけない場合は、上司が選択肢を示します。

最後に、確認する時期も決めます。

「次回の提出物を一緒に確認します。」

「一週間後に、手順が使いやすいか聞きます。」

叱る目的は、過去の失敗を長く反省させることではありません。

次により良い行動を取れる状態を作ることです。

褒め方と叱り方で信頼を失わない注意点

褒めるときと叱るときで態度を変えすぎない

褒めるときは親しげなのに、叱るときは相手を無視するほど冷たくなる。

機嫌がよいときだけ話しかけ、問題が起きると人間性まで否定する。

このように態度が大きく変わると、相手は上司の顔色をうかがうようになります。

問題行動には厳しく対応しても、相手への基本的な敬意は変えないことが大切です。

声を荒らげない。

話を途中で遮らない。

説明する機会を与える。

必要以上に長引かせない。

叱った後も、通常の業務連絡は普通に行う。

こうした一貫した態度が、安心感につながります。

反対に、褒めるときだけ過剰に親しくする必要もありません。

普段と同じ落ち着いた態度で、良かった行動を伝えれば十分です。

褒めることも叱ることも、相手との関係を操作する道具にしないようにしましょう。

扱う内容は違っても、相手を一人の人として尊重する姿勢は変えません。

気分によって評価の基準を変えない

上司の機嫌によって評価が変わる職場では、部下は成果より空気を読むようになります。

昨日は許された行動が今日は叱られる。

同じミスでも、人によって対応が違う。

前に褒められた方法を続けたら、突然否定される。

このような状態では、自分で判断して仕事を進めにくくなります。

基準を言葉にして共有しましょう。

どの品質を求めるのか。

いつ報告が必要なのか。

何を本人へ任せるのか。

どの行動は認められないのか。

また、自分の判断が変わった場合は、理由を説明します。

「以前は速度を優先していましたが、ミスが増えたため、今月から確認を重視します。」

この説明があれば、部下は基準の変更に対応できます。

評価の一貫性とは、状況が変わっても同じ判断をすることではありません。

状況に応じて変える場合に、理由を明確にすることです。

過去の失敗を何度も持ち出さない

今回の問題を伝えるときに、関係のない過去の失敗まで並べると、相手は人格全体を責められているように感じます。

「前にも失敗した。」

「去年も同じだった。」

「あなたはいつもそうだ。」

このような言葉は、現在の改善策を見えにくくします。

同じ問題が繰り返されている場合は、過去の記録を確認する必要があります。

ただし、相手を追い詰めるためではなく、これまでの方法では改善できなかった理由を考えるためです。

「同じ確認漏れが今月二回ありました。」

「口頭での注意だけでは防げていないため、チェック表を使いましょう。」

このように、事実と対策につなげます。

すでに改善済みの問題や、今回と関係のない失敗は持ち出さないようにしましょう。

一度の指導で扱う課題を絞ることで、相手も何を直すべきか理解できます。

褒めた直後に否定して打ち消さない

「資料はよかったです。でも、説明は全然ダメでした。」

このように、褒めた直後に強い否定を続けると、最初の褒め言葉が形式的に聞こえます。

相手は「褒め言葉の後には悪い話が来る」と警戒するようになります。

良かった点と改善点は、どちらも具体的に伝えましょう。

「数字の整理は正確でした。」

「一方で、結論が最後にあったため、次回は冒頭に置いてください。」

「良いけど」「褒めたいけど」と打ち消すより、二つの事実として分けます。

また、良かった点を伝えるときは、その場で一度受け止める時間を作ることも大切です。

褒めた直後に大量の改善点を並べると、相手は何も評価されなかったように感じます。

改善点が多い場合は、優先順位をつけます。

「今日は最も重要な一つだけ確認します。」

このように絞れば、次の行動へつながりやすくなります。

改善できたときはきちんと認める

叱った後に行動が改善されても何も言わないと、相手は努力が見られていないと感じます。

問題が起きたときだけ声をかける上司にならないようにしましょう。

「前回お伝えした後、遅れそうな時点で共有できています。」

「チェック表を使うようになってから、確認漏れがなくなりました。」

「今日はお客様へ回答する前に相談できました。」

このように、変わった行動を具体的に伝えます。

改善を認めることは、過去の失敗をなかったことにすることではありません。

必要な指導を受け、行動を変えた事実を評価することです。

叱られた後も、いつまでも「失敗した人」として扱われるなら、相手は努力する意味を感じにくくなります。

一度改善したことは、現在の行動として見直しましょう。

褒めることと叱ることは、別々の技術ではありません。

問題を伝え、改善を支え、変化を確認する一つの流れです。

まとめ

褒める目的は、相手の機嫌を取ることではありません。

良かった行動を具体的に伝え、今後も続けられるようにすることです。

叱る目的も、怒りをぶつけることではありません。

問題のある行動を止め、次に取る行動を明確にすることです。

褒めるときは、結果だけでなく、努力、工夫、判断、周囲への良い影響にも目を向けましょう。

「すごい」「優秀だ」と人物全体を評価するだけでなく、何が良かったのかを具体的に伝えます。

他人と比較して褒めたり、お願いを聞かせるためにお世辞を使ったりするのは避けましょう。

叱るときは、感情が強いまま長い話を始めないことが大切です。

安全に関わる行動はすぐに止め、その後で事情を確認します。

人格ではなく行動を伝え、事実、影響、次の行動を順番に整理しましょう。

また、褒めるときも叱るときも、基準を一貫させる必要があります。

上司の気分や好き嫌いで評価が変わると、部下は成長より顔色をうかがうようになります。

指導後に改善が見られたら、その変化も具体的に認めましょう。

良い褒め方と叱り方は、相手を思いどおりに動かす技術ではありません。

相手が自分の行動を理解し、次の一歩を選べるように支えるコミュニケーションです。

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