部下が指示待ちになっている、何度伝えても自分から動かない、褒めても叱っても反応が薄いと悩む上司は少なくありません。
しかし、部下のやる気は本人の気合いだけで決まるものではなく、仕事の目的、裁量、成長実感、信頼関係、相談しやすい空気によって大きく変わります。
この記事では、部下のやる気を引き出す心理学を初心者にもわかりやすく解説します。
自己決定理論、ピグマリオン効果、目標設定理論、心理的安全性をもとに、自分から動くチームを作る関わり方と注意点をまとめました。
部下のやる気を引き出すための基本
やる気は気合いだけで生まれるものではない
部下のやる気が低く見えると、「もっと本気でやってほしい」「意識を変えてほしい」と思うことがあります。
しかし、やる気は気合いだけで生まれるものではありません。
どれだけ気持ちを強く持とうとしても、仕事の目的がわからない、成長を感じられない、相談しにくい、失敗を責められる環境では、前向きに動きにくくなります。
部下がやる気を出せないときは、本人の性格だけを見ないことが大切です。
仕事の意味は伝わっているか。
何を期待されているかが明確か。
努力したことが見てもらえているか。
困ったときに相談できるか。
自分で考える余地があるか。
こうした条件を見直す必要があります。
自己決定理論では、自律性、有能感、関係性が人の動機づけに関わる基本的な心理的欲求として扱われています。
自律性とは、自分で選んで関わっている感覚です。
有能感とは、自分にもできる、成長できると感じる感覚です。
関係性とは、周りとつながり、支えられていると感じる感覚です。
上司の役割は、部下に「やる気を出せ」と言うことだけではありません。
やる気が育ちやすい環境を整えることです。
部下が動かない理由は能力不足とは限らない
部下が自分から動かないと、能力不足や意欲不足に見えることがあります。
しかし、実際には別の理由が隠れていることもあります。
何をすればよいかわからない。
どこまで自分で判断してよいかわからない。
失敗したときに責められるのが怖い。
上司に相談しにくい。
前に提案したときに否定された経験がある。
このような状態では、部下は自分から動きにくくなります。
動かないのではなく、動き方がわからない場合もあります。
やる気がないのではなく、動いた結果が怖い場合もあります。
だからこそ、上司は「なぜ動かないのか」を決めつけないことが大切です。
たとえば、部下がいつも指示待ちなら、「自分で考えて」と言うだけでは変わりにくいです。
どこまで任せるのか。
どのタイミングで相談してほしいのか。
判断基準は何か。
これらを明確にすると、部下は動きやすくなります。
部下が動かない理由を能力だけで判断すると、必要な支援を見落としてしまいます。
まずは、行動しにくい原因を一緒に整理しましょう。
指示より納得感が行動につながる
部下は、指示されたから動くことはできます。
しかし、長く前向きに動くには納得感が必要です。
「なぜこの仕事をするのか」がわからないままでは、作業としては進んでも、自分から工夫する力は生まれにくくなります。
たとえば、「この資料を作って」とだけ言われるより、「来週の商談でお客様の課題を整理するために、この資料が必要です」と言われた方が、何を大事にすればよいかがわかります。
「売上を上げて」と言われるより、「既存のお客様の継続率を上げるために、まずフォロー面談を増やしたい」と言われた方が、行動に落とし込みやすくなります。
納得感は、甘やかしではありません。
部下が自分の仕事として受け止めるための土台です。
自己決定理論では、自律性が基本的な心理的欲求のひとつとして扱われています。
目的がわかり、自分の役割が見えると、部下は「やらされている」ではなく「自分も関わっている」と感じやすくなります。
指示を出すときは、目的、背景、期待する成果を短く添えましょう。
それだけで、部下の動きやすさは変わります。
信頼関係があると前向きに動きやすい
部下のやる気を引き出すには、信頼関係が欠かせません。
上司を信頼できると、部下は相談しやすくなります。
挑戦もしやすくなります。
ミスを早めに報告しやすくなります。
反対に、上司に不信感があると、部下は最低限のことだけをこなそうとします。
失敗を隠したくなることもあります。
本音を言わず、表面上だけ合わせるようになることもあります。
信頼関係は、上司の言葉だけで作られるものではありません。
日々の行動で作られます。
約束を守る。
話を最後まで聞く。
成果だけでなく努力も見る。
人によって態度を変えすぎない。
失敗したときに感情的に責めない。
こうした小さな行動が積み重なると、部下は安心しやすくなります。
心理的安全性は、チーム内で対人リスクを取っても安全だという共有された信念として説明されています。
部下が前向きに動けるかどうかは、仕事の内容だけでなく、上司との関係にも影響されます。
まず信頼の土台を作ることが、やる気を引き出す第一歩です。
初心者が最初に押さえるべき考え方
部下のやる気を引き出したい上司が最初に押さえるべきことは、「部下を変えようとしすぎないこと」です。
もちろん、成長してほしい気持ちは大切です。
ただし、部下の性格や価値観をすぐに変えることはできません。
上司がまず変えられるのは、伝え方、任せ方、聞き方、フィードバックの仕方です。
たとえば、指示を出すときに目的を添える。
任せる範囲を明確にする。
小さな成長を具体的に伝える。
困っていることを聞く時間を作る。
失敗したときに、責めるより次の行動を一緒に考える。
こうした関わり方は、今日から少しずつ変えられます。
部下のやる気は、上司の一言で急に上がるものではありません。
日々の関わり方の積み重ねで変わります。
初心者の上司ほど、強い言葉で動かそうとするより、部下が動きやすい条件を整えることに目を向けましょう。
部下のやる気が下がる原因
目標の意味がわからない
部下のやる気が下がる原因のひとつは、目標の意味がわからないことです。
数字だけを渡されても、なぜその目標が必要なのかが見えなければ、部下は前向きに動きにくくなります。
「今月は契約件数を増やして」
「問い合わせ対応を早くして」
「ミスを減らして」
これだけでは、何のためにやるのかがわかりにくいです。
目標が意味を持つには、背景が必要です。
なぜ今その目標なのか。
その目標が達成されると、誰にどんな良い影響があるのか。
部下の仕事がチーム全体の成果にどうつながるのか。
これを伝えると、目標がただの数字ではなくなります。
LockeとLathamは、目標設定研究をまとめ、具体的で難しい目標が「ベストを尽くす」といったあいまいな目標より高い成果につながりやすいことを示しています。
ただし、目標は具体的であればよいだけではありません。
本人が理解し、必要な支援やフィードバックを受けられることも重要です。
部下が目標に向かって動けないときは、目標の意味が伝わっているかを確認しましょう。
頑張っても認められていないと感じる
部下は、自分の努力が見られていないと感じると、やる気を失いやすくなります。
結果が出たときだけ褒められ、途中の工夫や改善が見られていないと、「頑張っても意味がない」と感じることがあります。
特に、若手や経験の浅い部下は、結果がすぐに出ないこともあります。
そのときに、努力の方向や小さな成長を見てもらえると、次も頑張ろうと思いやすくなります。
たとえば、ただ「よかったね」と言うだけではなく、具体的に伝えます。
「前回より報告の順番が整理されていました」
「お客様の不安を先に確認できていた点が良かったです」
「ミスが起きたあと、すぐに共有できたのは良い対応でした」
このように伝えると、部下は何が良かったのかを理解できます。
認めることは、甘やかすことではありません。
望ましい行動を見つけて、次も続けられるようにすることです。
部下のやる気を高めるには、結果だけでなく、行動と成長にも目を向けることが大切です。
失敗を強く責められる
失敗を強く責められる職場では、部下は挑戦しにくくなります。
新しいことを試すより、怒られないようにすることを優先するようになります。
ミスを早めに共有せず、隠したくなることもあります。
もちろん、失敗を放置してよいわけではありません。
仕事では、ミスの原因を確認し、再発を防ぐ必要があります。
ただし、失敗した人を責めるだけでは、次の改善につながりにくいです。
「なんでできなかったの」と詰めるより、「どこで判断に迷いましたか」と聞く方が、原因を見つけやすくなります。
「次から気をつけて」だけで終わらせるより、「次回はこのチェックリストを使いましょう」と具体化する方が、行動につながります。
心理的安全性のあるチームでは、対人リスクを取りやすく、学習行動にも関係するとされています。
部下のやる気を引き出したいなら、失敗を責めるだけでなく、学びに変える関わり方が必要です。
仕事の裁量が少なすぎる
部下のやる気が下がる原因として、仕事の裁量が少なすぎることもあります。
何をするにも細かく指示される。
やり方を自分で考える余地がない。
少しでも違うやり方をするとすぐに直される。
このような状況では、部下は自分で考えなくなります。
上司の指示を待つ方が安全だと感じるからです。
自律性は、自己決定理論における基本的な心理的欲求のひとつです。
部下に自分から動いてほしいなら、ある程度の裁量を渡す必要があります。
ただし、丸投げは違います。
裁量を渡すときは、目的、範囲、判断基準、相談タイミングを伝えることが大切です。
「この企画の進め方は任せます」
「ただし、予算と納期に影響する変更は事前に相談してください」
このように伝えると、部下は安心して判断できます。
任せるとは、放置することではありません。
部下が自分で考えられる余地を作りながら、必要な支援はすることです。
上司に相談しにくい空気がある
部下がやる気を失う背景には、上司に相談しにくい空気があることもあります。
相談すると嫌な顔をされる。
質問すると「自分で考えて」と突き放される。
ミスを報告すると強く責められる。
忙しそうで声をかけにくい。
このような状態では、部下は問題を抱え込むようになります。
結果として、行動が遅くなったり、判断を避けたり、最低限のことしかやらなくなったりします。
上司にとっては「なぜ早く相談しないのか」と感じるかもしれません。
しかし、部下から見ると「相談しても大丈夫だ」と思える空気がないことがあります。
相談しやすい空気を作るには、普段の反応が大切です。
「早めに相談してくれて助かりました」
「ここで確認できてよかったです」
「一緒に整理しましょう」
このような言葉があると、部下は次も相談しやすくなります。
心理的安全性は、メンバーが対人リスクを取っても安全だと感じるチームの共有された信念として説明されています。
部下のやる気を高めるには、相談しやすい空気を作ることも重要です。
やる気を引き出すために役立つ心理学の考え方
自己決定理論
自己決定理論は、部下のやる気を考えるうえでとても役立つ理論です。
この理論では、自律性、有能感、関係性という三つの基本的な心理的欲求が重視されています。
自律性とは、自分で選んで関わっている感覚です。
有能感とは、自分にもできる、成長できると感じる感覚です。
関係性とは、周囲とつながり、支えられていると感じる感覚です。
部下のやる気を引き出したいなら、この三つを意識するとわかりやすいです。
自律性を高めるには、目的を伝えたうえで、やり方に一定の裁量を渡します。
有能感を高めるには、できていることや成長している部分を具体的に伝えます。
関係性を高めるには、困ったときに相談できる関係を作ります。
部下に「もっと主体的に動いてほしい」と思うなら、主体的に動ける条件を整える必要があります。
ただ任せるだけでも、ただ管理するだけでも不十分です。
目的、裁量、支援、フィードバックをセットで考えることが大切です。
ピグマリオン効果
ピグマリオン効果とは、周囲の期待が相手の行動や成果に影響するという考え方として知られています。
RosenthalとJacobsonの『Pygmalion in the Classroom』は、教師の期待と児童の知的発達に関する研究として広く知られています。
ただし、リーダーシップで使うときは、「期待すれば必ず伸びる」と単純に考えないことが大切です。
重要なのは、上司の期待が、部下への接し方や任せ方に影響することです。
「この部下は伸びる」と思っていると、上司は挑戦の機会を渡しやすくなります。
丁寧にフィードバックしやすくなります。
少し失敗しても、成長の途中として見やすくなります。
反対に、「この部下は無理」と決めつけていると、機会を渡しにくくなります。
説明が雑になったり、失敗を強く責めたりすることもあります。
その結果、部下の成長機会に差が出ます。
上司は、自分の期待や決めつけに気づくことが大切です。
期待とは、口先だけで「できるよ」と言うことではありません。
成長を信じて、必要な機会、支援、フィードバックを渡すことです。
目標設定理論
目標設定理論は、部下の行動を具体化するうえで役立つ考え方です。
LockeとLathamは、具体的で難しい目標が、あいまいな目標より高い成果につながりやすいことを示しています。
ただし、これは高い目標を押しつければよいという意味ではありません。
部下が理解し、納得し、必要な支援やフィードバックを受けられることが大切です。
たとえば、「もっと頑張ろう」という目標はあいまいです。
何をどれだけ変えればよいかわかりません。
一方で、「今週は既存顧客へのフォロー連絡を5件行い、困りごとを記録する」という目標なら、行動が見えます。
目標設定では、結果目標と行動目標を分けることも重要です。
売上や契約件数のような結果目標は大切です。
しかし、結果だけを示しても、日々の行動に落ちないことがあります。
そのため、上司は「何をすれば目標に近づくのか」まで一緒に考える必要があります。
目標は、部下を追い込むためのものではありません。
進む方向をそろえ、行動を具体化するための会話です。
心理的安全性
心理的安全性は、部下がやる気を持って動くための土台になります。
心理的安全性が低い職場では、部下は失敗を恐れます。
質問しにくくなります。
反対意見を言いにくくなります。
困っていても相談をためらいます。
その結果、自分から動くよりも、怒られないようにすることが優先されます。
心理的安全性は、甘い職場を作ることではありません。
仕事に必要なことを、安心して話せる状態を作ることです。
Edmondsonは、チーム心理的安全性を、チームが対人リスクを取っても安全だと共有している信念として説明しています。
上司ができることは、部下の発言への反応を整えることです。
質問されたときに馬鹿にしない。
ミスの報告を受けたときに、まず事実を確認する。
反対意見が出たときに、すぐに否定せず理由を聞く。
相談してくれたことに感謝する。
こうした反応があると、部下は安心して行動しやすくなります。
やる気のあるチームを作るには、安心して動ける土台が必要です。
認められたい気持ちとの向き合い方
部下には、認められたい気持ちがあります。
自分の努力を見てほしい。
成長を感じたい。
チームの役に立っていると感じたい。
この気持ちは自然なものです。
問題は、認め方が雑だったり、結果だけを見たりすることです。
「すごいね」だけでは、部下は何が良かったのかわかりません。
「よく頑張ったね」だけでは、次に何を続ければよいかが見えません。
認めるときは、行動を具体的に伝えましょう。
「会議前に論点を整理してくれたので、議論が進めやすくなりました」
「前回より報告が短くまとまっていて、結論がわかりやすかったです」
「ミスを早めに共有できたので、対応が遅れずに済みました」
このように伝えると、部下は自分の行動の価値を理解できます。
自己決定理論では、有能感や関係性が動機づけに関わる基本的な心理的欲求として扱われています。
認めることは、部下を気分よくさせるためだけのものではありません。
良い行動を見つけ、成長につなげるためのものです。
部下のやる気を高める実践的な関わり方
仕事の目的をわかりやすく伝える
部下に仕事を任せるときは、作業内容だけでなく目的を伝えることが大切です。
「この資料を作って」
「このリストを更新して」
「このお客様に連絡して」
これだけでは、部下は作業としてこなすだけになりやすいです。
目的を伝えると、仕事の意味が見えます。
「この資料は、来週の商談でお客様の課題を整理するために使います」
「このリストは、対応漏れを防ぐために更新します」
「この連絡は、解約リスクを早めに確認するために必要です」
このように伝えると、部下は何を大事にすればよいかがわかります。
目的がわかれば、自分で工夫もしやすくなります。
ただ言われたことをやるのではなく、より良いやり方を考えられるようになります。
部下のやる気を引き出すには、「何をするか」だけでなく「なぜするか」を伝えましょう。
目的がわかると、仕事は単なる作業から意味のある行動に変わります。
小さな成長を具体的に認める
部下のやる気を高めるには、小さな成長を具体的に認めることが大切です。
大きな成果が出るまで何も伝えないと、部下は自分が前に進んでいるのかわかりません。
特に、新しい仕事に挑戦しているときは、途中の成長を見てもらえることが支えになります。
認めるときは、できるだけ具体的に伝えましょう。
「良かったよ」だけでなく、「お客様の質問に対して、先に背景を確認できていたのが良かったです」と伝える。
「成長したね」だけでなく、「前回より説明の順番が整理されて、聞き手が理解しやすくなっていました」と伝える。
このように言うと、部下は何を続ければよいかがわかります。
また、結果が出ていないときでも、改善した行動は認められます。
「今回は契約にはつながりませんでしたが、課題の聞き出し方は前回より良くなっていました」
このように伝えると、部下は次に向かいやすくなります。
認めることは、甘やかすことではありません。
部下の成長を見つけ、次の行動につなげることです。
任せる範囲を明確にする
部下に任せるときは、任せる範囲を明確にすることが重要です。
「任せるから自由にやって」と言われても、部下は不安になることがあります。
どこまで自分で決めてよいのか。
どのタイミングで相談すればよいのか。
予算や納期に影響する判断はどうすればよいのか。
ここがあいまいだと、部下は動きにくくなります。
任せるときは、目的、範囲、基準、相談タイミングを伝えましょう。
「この企画の進め方は任せます」
「ただし、予算が変わる場合と納期に影響する場合は、事前に相談してください」
「途中で一度、金曜の午前に進捗を確認しましょう」
このようにすると、部下は安心して動けます。
裁量があることは、やる気につながりやすいです。
ただし、放置されると不安になります。
上司は、任せることと支援することをセットで考える必要があります。
部下が自分で考えて動くには、安心して判断できる枠組みが必要です。
1on1で本音を聞く
1on1は、部下のやる気を引き出すために役立つ時間です。
ただし、進捗確認だけで終わると、本音は出にくくなります。
1on1では、部下が普段言いにくいことを話せる空気を作ることが大切です。
最近、仕事で負担に感じていることはあるか。
今の目標で、進めにくい部分はあるか。
もっと任せてほしいことはあるか。
逆に、支援が必要なことはあるか。
チームの中で、相談しづらいことはあるか。
このような質問は、部下の状態を理解する助けになります。
上司は、すぐに解決策を出そうとしすぎないことも大切です。
部下が話している途中で「それはこうすればいい」と返すと、本音が出る前に会話が終わってしまうことがあります。
まずは聞く。
次に確認する。
最後に一緒に次の行動を決める。
この流れが大切です。
心理的安全性があるチームでは、対人リスクを取りやすくなるとされています。
1on1は、その安心感を作る場でもあります。
失敗を責めずに次の行動へつなげる
部下が失敗したとき、上司の反応はとても重要です。
感情的に責めると、部下は次からミスを隠したくなるかもしれません。
反対に、失敗を軽く流しすぎると、改善につながりません。
大切なのは、失敗を責めるのではなく、次の行動につなげることです。
まず、事実を確認します。
何が起きたのか。
どの時点で判断が難しかったのか。
どの情報が足りなかったのか。
誰に相談すればよかったのか。
次に、再発を防ぐ行動を決めます。
チェックリストを使う。
相談タイミングを決める。
レビューの工程を入れる。
判断基準を共有する。
このように、失敗を具体的な改善に変えます。
「なぜできなかったの」と責めるより、「次に同じことを防ぐには何が必要か」と聞く方が前向きです。
失敗は、部下を責める材料ではなく、チームの仕組みを見直す材料にもなります。
上司が冷静に対応できると、部下は挑戦を続けやすくなります。
やる気を引き出すときの注意点
褒めればよいと単純に考えない
部下のやる気を引き出すには、褒めることが大切です。
しかし、ただ褒めればよいわけではありません。
中身のない褒め言葉は、部下に響きにくいです。
「すごいね」
「いい感じ」
「さすが」
このような言葉だけでは、部下は何が良かったのかわかりません。
また、改善が必要な場面で褒めてばかりいると、成長の機会を失うこともあります。
褒めるときは、具体的な行動を伝えましょう。
「事前に質問を整理していたので、商談がスムーズでした」
「ミスの報告が早かったので、対応が間に合いました」
「前回より説明が短くなり、結論が伝わりやすくなっていました」
このように伝えると、部下は良い行動を再現しやすくなります。
褒めることは、部下を気分よくさせるためだけのものではありません。
成長につながる行動を見つけて、次につなげるためのものです。
部下をコントロールしようとしない
心理学を学ぶと、「どうすれば部下を動かせるか」と考えたくなることがあります。
しかし、部下をコントロールしようとする姿勢は危険です。
部下は、上司の意図を感じ取ります。
表面上は従っていても、心の中では納得していないことがあります。
顔色をうかがうだけになり、自分で考えなくなることもあります。
自己決定理論では、自律性が重要な心理的欲求として扱われています。
部下のやる気を高めたいなら、本人の意思や判断も尊重する必要があります。
上司ができるのは、目的を伝えることです。
必要な情報を渡すことです。
支援することです。
フィードバックすることです。
しかし、最終的にどう受け取り、どう成長するかには、部下本人の意思も関わります。
心理学は、部下を思い通りに動かすためのものではありません。
部下が力を出しやすい環境を作るために使いましょう。
全員に同じ関わり方をしない
部下への関わり方は、全員同じでよいわけではありません。
同じ言葉で励まされる人もいれば、プレッシャーに感じる人もいます。
細かく確認されると安心する人もいれば、任されることで力を出す人もいます。
経験が浅い人には、具体的な指示や確認が必要なことがあります。
経験がある人には、細かすぎる管理がやる気を下げることがあります。
大切なのは、評価基準は公平にしながら、支援の仕方は相手に合わせることです。
新人には、作業手順や相談タイミングを明確にする。
中堅には、裁量と責任を少しずつ広げる。
経験豊富な部下には、目的と期待を共有して任せる。
このように関わり方を変えると、部下は動きやすくなります。
全員にまったく同じ対応をすることだけが公平ではありません。
必要な支援は人によって違います。
部下の状態を見ながら、関わり方を調整しましょう。
プレッシャーをかけすぎない
部下に期待することは大切です。
しかし、プレッシャーをかけすぎると、やる気より不安が強くなることがあります。
「絶対に達成して」
「失敗は許されない」
「これくらいできて当然」
このような言葉が続くと、部下は挑戦よりも失敗回避を優先するようになります。
目標は必要です。
ただし、目標と支援はセットで考える必要があります。
LockeとLathamの目標設定理論では、具体的で難しい目標が高い成果につながりやすいとされていますが、目標が機能するには受け入れやフィードバックなどの要素も重要です。
高い目標を伝えるなら、なぜその目標なのかを説明する。
何をすれば近づけるのかを一緒に考える。
途中で進捗を確認する。
障害があれば取り除く。
この支援があって初めて、目標は前向きな力になります。
プレッシャーだけでは、部下は長く走れません。
期待と支援のバランスが大切です。
上司自身の言動にも一貫性を持つ
部下のやる気を引き出すには、上司自身の言動にも一貫性が必要です。
「挑戦してほしい」と言いながら、失敗したら強く責める。
「何でも相談して」と言いながら、相談されると不機嫌になる。
「公平に評価する」と言いながら、人によって態度を変える。
このようなズレがあると、部下は上司を信頼しにくくなります。
部下は、上司の言葉だけでなく行動を見ています。
信頼は、一度の立派な言葉で作られるものではありません。
日々の小さな行動で積み重なります。
約束を守る。
判断の理由を説明する。
ミスが起きたときに冷静に対応する。
部下の話を最後まで聞く。
言ったことを忘れない。
こうした行動が、部下の安心感につながります。
上司も完璧である必要はありません。
間違えたら認める。
説明が足りなければ補う。
感情的になったら謝る。
この姿勢も、一貫性の一部です。
部下のやる気を引き出すには、上司自身が信頼される行動を続けることが大切です。
まとめ
部下のやる気は、本人の気合いだけで決まるものではありません。
仕事の目的が伝わっているか。
自分にもできそうだと感じられるか。
相談しやすい関係があるか。
失敗しても学びにつなげられる空気があるか。
こうした環境や上司の関わり方によって、部下の行動は変わります。
部下のやる気が下がる原因には、目標の意味がわからないこと、努力を認められていないと感じること、失敗を強く責められること、裁量が少なすぎること、上司に相談しにくい空気があることなどがあります。
やる気を引き出すためには、自己決定理論、ピグマリオン効果、目標設定理論、心理的安全性、認められたい気持ちとの向き合い方が役立ちます。
ただし、心理学は部下をコントロールするためのものではありません。
部下が安心して考え、動き、成長できる環境を作るために使うものです。
仕事の目的をわかりやすく伝える。
小さな成長を具体的に認める。
任せる範囲を明確にする。
1on1で本音を聞く。
失敗を責めずに次の行動へつなげる。
こうした関わり方を続けることで、部下は少しずつ自分から動きやすくなります。
やる気を引き出す上司は、部下を無理に動かす人ではありません。
部下が動きやすい土台を作れる人です。
- Theory|Self-Determination Theory
- Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams|Administrative Science Quarterly
- Building a Practically Useful Theory of Goal Setting and Task Motivation|American Psychologist
- Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams|MIT
- Pygmalion in the Classroom: Teacher Expectation and Pupils’ Intellectual Development|CiNii Research

